続・よきサマリア人

「よきサマリア人」と米国ABCニュースで報道されたダグラス氏のことをピノコさんがガチャピン先生に語ったその日の夜、恒例のブレストセンターの「大忘年パーティー」が都内某所で催された。

ドクターやナースによる「規格外」「超・豪華」かくし芸めじろ押しのなか、目玉イベントである「福引き」(受付時にそれぞれが書いた携帯電話番号の紙を、司会アシスタントのテラスちゃんが引き、コールするというもの)がはじまったのだが、その夜、いの一番に鳴ったのはガチャピン先生の携帯電話だった。

おどろいた表情で、司会のもとへかけつけるガチャピン先生……とそこまではニルバも、ピノコさんが小皿についでくれたシャンパンを味わいながら目で追っていたのだが、一等賞の商品は何だったのか、それすら確認せぬまま時はなごやかに過ぎ、気がつけば、「福引き」はさいごにのこった「宝の山」からコールをうけた人が自由に賞品を選ぶというくだりに移行していった。

ニルバの横でテレサ先生とピノコさんと談笑中のガチャピン先生は、時折ニルバのいるテーブル上にケーキの破片などを落としてくれていたのだが、それらに舌つづみをうって顔をあげると、当のガチャピン先生が、ふたたび司会のもとへ走りよる姿が目にとびこんだ。

「もう一度テラスちゃんが引いてくれたので、こんどはありがたく頂戴することにします」
顔をやや赤らめたガチャピン先生が、笑顔満面のテラスちゃんと愛らしい“ももクロ”衣装に身をつつんだ司会のミンコロ先生の横で、マイクを手に頭を下げている。

(あれ、いちど当たった人は除外されるはずなのになぜ?)と、かたわらのピノコさんに目で問いかけると、
「一等賞が当たったとき、ガチャピン先生ったら、『仕事がうまく運ぶのは皆のおかげだから、他の方にゆずります』って辞退されたの。でも、こんなに大勢いて2回も当たるなんて、きっとテラスの手に神さまがおりてきて選ばれてるのね」
と、ニルバの口もとを紙ナフキンでぬぐいながらおしえてくれた。

(そうかあ)
そのとき、ニルバは心のなかでさけんだ。
……「よきサマリア人」とは、ガチャピン先生、あなたです!