天敵あらわる?!

医局住まいの快適さの筆頭要因は、天敵がいないことである。

自然界では、いかなるときも動物的な緊張感をもって生活しなければならない。とりわけ、睡眠に関しては時と場所を慎重に吟味する必要がある。

しかしここでは、人間(しかも医療者!)たちに守られ、いつでもどこでもうたた寝することができる。こんな生活を送っていたら、もう自然界には戻れないのではと危惧しつつ、今日も医局の隅で眠りにひきこまれるニルバだったのだが……

ある日、ついに“天敵”(仮にTとする)が登場した。
「この日を指折りかぞえて待ってました!」
テレサ先生付秘書のミイさんに連れられTが医局にやってきたとき、顔を輝かせてミイさんに抱きつくピノコ秘書の姿を見て、ニルバは嫉妬心にかられ、両の頬をおおきくふくらませた。
「えーこれからずっとここ専属なんですか? うれしい〜〜」
受付嬢たちも、ディズニーのキャラクターさながら、手のひらをあわせた両手を片頬につけ、うっとりしたポーズをとる――

こうしてその日、医局にやってきたのは、ピノコさんやナースたちが長年待ち望んだブレストセンター専用の荷物運搬用台車だった。
「名前をつけるとどこかへ置き忘れられずに皆が大事にしてくれるから」
と、ピノコさんのとっぴなアイディアで名前を募集したところ、「まっすぐぴゅーっと走るように」というウッズ先生の案により、Tは「光号」となづけられた。

「それいけ光号」とマグネット式ステッカーを貼られ、転倒防止にとエアーパッキンを敷きつめた専用“ベッド”まで用意され、晴れて医局の住人となった天敵H。その後も受付嬢やらミイさんやらナースたちがうきうき顔でやってきては、「光号かりていきま〜す!」と、ニルバとピノコ女史に笑顔をふりまく。

……う〜ニルバはブログ執筆以外役に立たないのか?

モテモテの天敵Hを横目で見ながら、悶々とした気持ちをひたすら博士号取得のための研究に向けようとするニルバであった。