鮮魚

医局には、まだブログに登場していない職種の大切な“チームメイト”がもう1人いる。
「データ入力アルバイト」のTくんだ。

かかるアルバイトの歴史は、ブレストセンターの開設直後にはじまり、すでに長期アルバイト生も2代目となった。栄えある1代目は、テレサ先生付秘書ミイさんのご子息Rくんである。当時、W大オーケストラ部でトロンボーンを吹いていたRくんが、有能かつ大らかで気持ちのよい青年だったため、その後「同オーケストラ部内で引き継いでいくように」といった筋立てとなった。

そのRくんが、監督者であるピノコさんから「コンピュータ技術も性格もともにイチオシの後輩クンをつれてきて」との強いリクエスト(!?)を受け、お目見えしたのが、チューバ奏者のTくんだった。目利きのRくん推薦だけあるおちついた佇まい、楽器に比例した体格、卓越したコンピュータ技術、そして知性のにじむ物腰のやわらかさ――Tくんが帰ったあと、ピノコさんが「合格!」とにっこりすると、
「『ここでもっとも大切な仕事は、ピノコさんのつぶやきをしっかり受けとめることだから』ともちゃんと言ってありますので」と言って、Rくんは愛嬌よく片目をつむった。

さて、そのTくんに、アルバイト開始早々ピノコさんがもらしたつぶやきが、
「新しくくる台車の名前って、何がいいかしら」
というものだった。キーボードを打つ手をとめ、頬を紅潮させて両手を膝の上においたTくん、やや首をかしげたあと「……センギョ……」とつぶやいた。

「え、選挙?」とピノコさん。
「……あ、いえ、新鮮な魚で“鮮魚”です。うちのオーケストラで中古台車を購入したとき、マジックで大きく『鮮魚』って書いてあるやつが来て、たぶん前はさかな屋さんか市場で使われていたんでしょうけど。以来、うちの部では『鮮魚』イコール台車となって、楽器を運ぶとき『あ、ちょっと鮮魚もってきて』とかっていうんです」

「そうなの? うふふ、おもしろいわね〜」と、Tくんの初「ツブヤキガエシ」はピノコさんに一笑されてしまったが、のちにニルバは、
(天敵Hが“光号”なんてカッコイイ名前ではなく、センギョだったら……)
と、ちょっぴり悔しく思い返してしまったものだ。

そのTくんも早4年生となり、先月アルバイトを休んで母校の高校へ3週間、教育実習に赴いた。実習後の初出勤の日、
「これ、最終日に生徒たちにもらったんですけど……ピノコさんならきっと、話だけでなく『持ってきて見せて』って言うだろうと思って」
と、うれしそうに、若き先生のタマゴへの応援メッセージが書き込まれた色紙を、ニルバとピノコさんに見せてくれた。

(そうか、“鮮魚”って、ピチピチした彼らのことだなあ)
と、そのとき、将来をまっすぐ見すえたTくんの瞳を見て、ニルバはおもった。

TくんにRくん――平成という新たな時代に生まれの彼らの今後に、心からのエールを送りたい。