くまモン襲来

先月末、年1回ひらかれる日本乳癌学会の学術総会が、熊本で開催された。

週の半ばすぎから1人2人とドクターやナースの大移動がはじまり、手術や外来をおえてあわててとび発った医師から「名刺を忘れた」「発表の資料の変更分を……」といった緊急連絡がはいると、それを後から出る者が持って空港へ出立する――

そうした慌しさの後、閑散とした金曜午後の医局には、「留守番」役の若い医師やナースのほっとした笑顔がひろがった。
「年に1,2回はこういう日もないとねー」
いつになくゆったりとした空気の中で誰かがそういって大きく伸びをしたとき、病棟からコールが入り、ふだん以上に緊張した表情になった若い医師が、足早に病棟に上がっていった。

そんな週明けの月曜日、医局は黒と赤と黄色で彩られた包みでうめつくされた。熊本から、ドクターやナースらに連れられ、「くまモン」が大群で押し寄せたのである。もちろん、「スイーツ男子」のはしくれであるニルバとしては、中身に興味のあるところだが、その25億円を稼ぎ出したという「ゆるキャラ」に威圧され、包みのあるあたりになかなか近づけない。察したピノコさんまでが、なぜかくまモンそっくりのあやしい笑みをうかべ、ニルバのまえに中からとり出したお菓子をおいてくれる始末だった。

「俺なんて、学会の合間に一生懸命くまモンのポシェット探して買って帰ったのに、娘にかけてやったらコワイって泣かれたよ」
いつもの活気をとりもどした医局に、ウッズ先生の声が飛び、周囲を笑わせる。人間でも、幼きヒナはニルバとおなじ動物的感覚をもっているのかもしれない。あの威圧的な黒い色と爬虫類的な目は、たしかにどこか不気味である。

それにしても、架空の動物を創りあげて「キャラクター」として偶像化し、経済的効果に結びつける人間という生き物の営みは、底知れないダイナミズムにあふれている。