心医ホジュン

今年のゴールデンウィーク後半の3日間、ニルバは秘書のピノコさんに招かれ、ピノコ家でのホームステイを楽しんだ。

初日、ピノコ家から徒歩5分のところにあるピノコさんの実家まで、テラスちゃんの自転車のかごに入れてもらい「じーじ」の様子を見にいくと、他の家族が外出中の居間で、ここのところすこし耳が遠くなったという「じーじ」が1人、大音響で韓国ドラマを楽しんでいた。

翌日、公園へ行く道すがら立ち寄ってみると、じーじはやはりおなじ姿勢でおなじドラマを見ている。その集中度といったら! いとしい孫のテラスちゃんが話しかけてもうわの空なくらいの陶酔ぶりである。そのまた翌日も……というニルバとテラスちゃんの報告をうけ、家でガーデニングを楽しんでいたピノコさんも3日目、ついに腰をあげた。

「大丈夫?」
すこし空気のよどんだ閉めきった居間に顔を出し、娘のピノコさんが声をかけても、テレビに夢中でほとんど反応のないじーじ。いったいどのような内容なのか、半ば呆れてとテレビに目をむけたピノコさんとニルバとテラスちゃん、なんとそのまま2人と1匹して約3時間半はまってしまった。

そのドラマは、朝鮮時代に実在した医師の波乱万丈の人生を描いた大河ドラマだった。
「この人は、『心医』というものをめざしているんだ」
コマーシャルのたび、正気にもどり、じーじが説明してくれる。
「ときどき漢方の処方が出てくるんだが、それがとても正確なんだ」

現役薬剤師のじーじも感心した様子である。
なかなかいとまを告げにくかったが、夕食時を過ぎ、すばやく移動して最終回までビデオにおさめようと、暗くなった一本道を、さいごはピノコさんとテラスちゃんとすっとんでもどってきた。

あとで調べてみると、そのドラマは韓国で1999年に放送され、大河ドラマ史上はじめて60%という高い視聴率を記録した伝説の作品であった。放映後、漢医学の人気が高まり、大学の漢医学科の競争率が急上昇するという「ホジュンシンドローム」とよばれる社会現象までおこったという。日本では限定40話で放送されたが、熱烈なコールがつづき、GW中の65話一挙放送となった。

ドラマの壮大なストーリーもさることながら、「心医」になるというゆるぎない信念をもち、病者に対する限りない愛情を持ってたゆまぬ努力を続けるホジュンの人柄と生きざまが胸をうつ。

これほど「ブレない」人が、はたして現代日本に存在するだろうか?
ホジュン〜宮廷医官への道〜、医療に従事する側にも受ける側にも、ぜひお勧めしたい名作である。