愛される秘訣

ブレストセンター・オンコロジーセンター・緩和ケア科と3科の全体運営に目を光らせるベテラン看護師のタマヨさんは、当日の外来担当ナースに欠員が出ると、ブレストセンターにやってきて腕をふるう。
「私のころといろいろ違うから、たまに前線に出ると教わることばっかりで疲れるわ〜」
と、タマヨさんはそんな冗談を飛ばしながら、ニルバの前を風のように通り抜ける。

「チーム医療の基本はね――」
ようやく一息ついたとき、いつもの「お湯割りコーヒー」を手に、タマヨさんはピノコ秘書に語りはじめた。
「やっぱり誰もが愛される人間になる、ってことですよ。『この人のためならもっとしてあげたい』って思わせる人っているでしょう? 医師もそう、看護師もそう、そしてこれは私の患者としての経験からも言えることだけれど、患者だってそうですよ。そういう人たちが集まったとき、最善の医療が実践できるんです。”神”とあがめられる医者が1人いたって実践できない」

タマヨさんの話はいつも唐突だが、それを心得ているピノコさんは、パソコンを打つ手をとめ、すぐに周波数を合わせる。
「つまり、コラボレーションってことですね?」
「そうですよ。人間ってね、『人』より『間』のほうに重きがあるの。つまり、各自が人から愛される人間になることこそが、最良の医療が実践できる秘訣です」

「では、『愛される人間』とは?」
ニルバが発したかった質問が、ピノコさんの口からつづく。
「まずは赤ちゃんとか、ピュアな人ね。大人の場合は、無条件にピュアといえる人はすくないから、義務をきちんと果たす人。権利ばかり主張する人は、『間』のバランスがわるいから大切にされません。それから感謝が深い人。感謝する人間は人から愛されます」

乳がん胃がんのサバイバーであり、長年ナースとして愛ある医療に携わってきたタマヨさんの言葉には、「玉ヨ」さんだけに殊玉の味わいがある。