ナースの力

「先生、これはダメですよ。ここのところ、もっとこういう風にしてもらわないと。この方が患者さんのためだと思いますけど、先生はどう思われます?」

小鳥のさえずりのような声にふりむくと、目のまえにいたのは中堅医師と若手看護師で、ニルバは仰天した。

ここは、ナースの力が本当に強い(この点、日米伊とワールドワイドな患者歴をもつピノコ秘書も、日本の他病院ではあまり見られない光景では、と同意見である)。それもかつての日本の「ベテラン看護婦」の典型のような世話焼きスタイルではなく、年齢の上下を問わず、誰もが一医療従事者として自然に医師に意見を述べる。呼び止められた医師も億劫がらずに足をとめ、フムフムとしたり顔で相槌をうつ。「そのまま英語に置き換えてもすっとおさまる自然な光景」――と、ピノコさんもニルバを見つめてにっこりする。

ふと見上げると、医局の壁に、テレサ先生の前の初代センター長N医師による見事な英文和訳が飾られていた。

"Nurses will treat you as you treat them."
<ナースをリスペクトする>

ここではそれが、日々自然に実践されている。そんな「母」の権限の強い場所はきっと住み心地がよいにちがいない――5年前、古池をとりしきっていた今は亡き母かえるをそっと思い浮かべ、ニルバがしばしここに住まわせてもらおうと決めた瞬間である。