クラフトマンシップ

花の独身時代に山あいの工場でゴルフクラブを作っていたという不思議な経歴をもつピノコさんが、以前、「ゴルフクラブ削っとらんかったら、仏師になっとった」と職場の“名人”が言っていた、と話してくれたことがある。われらがアート・ディレクター、ウッズ先生も、まぎれもなくそんな才に恵まれた1人である。

かつてご紹介した医療用テープで“手”をこしらえるなどはお手のもの。その才能は医療現場にも生かされており、ウッズ先生に手術をしてもらった外国人の患者さんが、本国へ帰って手術具合を報告した結果、そのお手並みのみごとさに、地球の裏側から「ぜひご指導・ご講演願いたし」とラブコールを送られたという逸話もある。

そんなウッズ先生の悩みは、なにをかくそう、童顔に見えること。「女性の先生を」「もっと年上の医師を」「男性のドクターでないと……」と、医療チームは時折リクエストをうけることがあるが、ウッズ先生の悩みも深刻で、「患者さんへの信頼度をますべく」さまざまな努力を試みた時代があった。

たとえばある休み明けの朝、ウッズ先生は髭を伸ばして登場した。
ピノコさん、どう?」
ちょっぴり得意顔でたずねるウッズ先生を一瞥し、ピノコさんはそっけなくこたえる。
「モンゴルの王子さまがむさ苦しい野生人に変身しただけって感じですけど」

それより――とニルバは考える。”手”やその他の芸術作品を、スマイルサロンにでもウッズ先生の記名入りで展示してみては? どれほど器用な、そして情熱と職人気質をかね備えた逸材か一目瞭然なのでは?

そんな提案を真剣に行ってみようかと思案していたところへ、当のウッズ先生が「ちょっとひと休み」と、好物のコーヒーを手にニルバ家の裏庭に現れた。
「人物だけじゃなく、俺、こういうのもうまいんだゾ」といいながら、デスクの前に腰をおろし、N先生のオランダ土産であるコースターの絵をメモ用紙に手際よく模写していく。

その速いこと、上手いこと!

午後のひととき、うつらうつらしはじめたニルバも目を見ひらいてうっとり見入ってしまうほど引きこまれる、ウッズ先生の作品であった。