コーヒーブレイク

不覚にもニルバがウトっとした昼下がり、手術着姿のウッズ先生が音もなく医局にあらわれた。

「やあ、ニルバ。調子はどう?」
笑顔をふりまき、いつも通り、真っ先にコーヒーメーカーのもとへ向かうウッズ先生。
「お、なんだこのコーヒー。煮詰まってて渋いな」

「入れ直しましょうか?」
パソコンのキーボードを打ちながら、ピノコ秘書がすかさず声をかける。
「うーん、いいワ、これで。(手術が)もう1件あるから、目を覚まさないと」
そういって、ウッズ先生は味わい深そうにコーヒーを口に運びながら、壁の掲示物に目をむけた。

「『愛をつなぐ』――かあ。カッコイイけど、これを地でいけるテレサ先生って、やっぱりすごいよなあ」
ブレストセンターの特製カレンダーをまじまじと見つめ、おもわず「ホンネ」をもらすウッズ先生。疲れた様子ではあるが、そんな時の横顔は、まさにプロフェッショナルのそれである。

同じオスながら、その凛とした表情に、ニルバがおもわず見惚れていたら、
「あーまた渋いコーヒーもたまらんね。……で、こんなときに、ニルバにブログに書きこんでもらえるようなうまいセリフを言えたらなおカッコイイのになあ。悔しいけど、疲れすぎてて何も浮かばんワ」

頭をぽんぽんとたたかれ、
(はい、もういただいてますっ!)とニルバは笑みを返した。

ピノコさんが入れ直したコーヒーの香りが医局内に広がりはじめたころ、
「この匂いにつられて入ってきちゃった〜」
といって、こんどはナース長のタマヨさんが顔をのぞかせた。

さっそく淹れたてのコーヒーをカップ半分ほどのお湯でうすめ、ピノコさんの横へ佇む。

「今、N科を見ているんだけれど、N科って、スタッフの食事会とかぜんぜんなかったんですって。それで驚いて、『ノミニケーションも重要よ』って子供参加OKの食事会を企画したら、スタッフの1人が子供が遊べる専用のキッズマットを用意してきて、みんな大喜びだった。……そんな心遣いってとてもありがたいし、仕事にも通じることよね」

コーヒーが演出するひと紡ぎの言葉――そんな言葉の数々を、うなずくピノコさんの横でそっと心の帳面にかきとめる昼下がりのニルバであった。