地球のおかあさん

テラスちゃん(当時8歳)がなにげなく書いて5月のディスプレイに採用された
<女せいは地きゅうのおかあさん>の文字――昨年はじめてお目みえしたとき、ナースのMさんが涙ぐみながらとびこんできて、
「なんて言葉なんでしょう……涙がとまらない。癒されます。ありがとうございます」
ピノコさんのまえで何度も頭を下げていた。
今でもわすれがたいほど美しい、1人の地球上の「おかあさん」の涙だった。

ニルバの母はすでに他界しているが、医局で「母」ときいてまっさきに思い浮かぶのは、われらがナース長のタマヨさんである。実際にお嬢さんが2人いて、1人を医師に、1人を看護師に育て上げた。働きながら、乳がん胃がんの試練をかかえながらの母親業は、まさに筆舌につくしがたいものだっただろう。

そして次に思い浮かぶのが、今回の主人公、ボランティアのSさんである。もとはN先生の患者さんで、快復されて以降、N先生関連のクリニックとL病院での愛あふれる「奉仕活動」をかけもちされている。

「治ったら『ここも行こう、あそこも行こう』って思い描きながらがんばったの」
そういって笑顔をみせるSさんは、「今がんばってる人たちのために」と、超音波検査後のゼリーをぬぐう紙を切ったり、冊子のホチキス止めに余念がない。そうして患者さんや医療者を底辺でささえる活動に精を出されては、合間にぱっと世界の最果ての地のような所へ飛び立たれる。

マチュピチュで天空に向かって両手を上げるSさん、タージマハルをつまみあげるしぐさをするSさん――写真を見せてもらうたび、ああ、この人はほんとうにこの姿を目標にがんばってこられたんだ、と目頭が熱くなる。お子さんのいない1人暮らしのSさんは、まさに「地球のおかあさん」である。

ある日、医局の外からもどったニルバは、「ボランティアさん」のトレードマークであるピンクのエプロンをつけたSさんと、いつもの白いユニフォーム姿のタマヨさんが、「古傷」の話でもされているのか、ニルバ家のあたりで談笑しながら、たがいの肩のあたりをやさしくさすり合っている光景を目にした。

あまりにも神々しすぎて、そのまま扉をしめた。
「母の日」が間近にせまった、ある日の医局の光景である。

すべての「地球のおかあさん」へ――Happy Mother’s Day!