何か出ている?!

3番診察室のプリンターがこわれた。
すぐに管理部門に連絡し、担当部員がかけつけたが、予約の患者さんが列をなす外来診察日のテレサ先生は、「困る〜どこか空いてないかしら」と医局内をウロウロ。

ブレストセンターには現在、5つの診察室がある。曜日により外来担当医師が異なるため、その日の状況により別の診察室を使用する時もあるが、基本的に、ドクターたちは機器の種類や室内設備の微妙な配置のちがい等により、ホームグラウンドと慕う部屋をもっている。テレサ先生の場合、ホームは3番である。

「あーどこもあいてない。ちょっと気をおちつけよう」
ささやかな憩いのスペースであるテーブルに近づき、コーヒーをすするテレサ先生。
「私、何か出てるのかな。きのうはエコー(超音波検査機)がこわれたし」
そうつぶやくテレサ先生に、
「その前は、電子レンジもこわれましたよね」
と、かたわらで入力作業をしていたナースが、ふりむきざま合いの手を入れる。

テレサ先生と話していて、ウッズ先生もこわれた」
ふだんは口数のすくないガチャピン先生が横から茶々をいれたところで、水屋をはさんだ反対側でパソコンに向かっていたピノコさんが吹き出し、デスクに突っ伏した。

「そう、俺もこわれた」
開け放たれた2番診察室内から、ウッズ先生の声が飛ぶ。
「それ、私のせい?」とテレサ先生。
「きっとそう。ぜったい先生からは何か出てる」
と、こんどは通りがかったナース・リーダーのマスコさんが受ける。

「やっだー、じゃあみんなこわれちゃう……でも、キミだけは免疫ありそうね」
テレサ先生に肩をたたかれ、ガチャピン先生が耳を赤くした(であろう)ところで、プリンターの修理を行っていた部員が顔を出し、作業の完了を知らせた。

笑いの余韻をのこしたまま、テレサ先生はすばやく手洗いをすませ、見上げたミラーの中で眉をきりりと引き締める。そして、勇ましい足どりでホームグラウンドへ戻っていった。

……ジッと聞き耳をたてていたニルバ、おもうに、テレサ先生からは、強力電磁波というかオーラというか、カエルも逆毛立つ(?!)ような何かが出ている(この点、ピノコさんもまったく同感である)。それが、人類にとって測定可能なものかどうかは別として……

はたして、それは何なのか?
「医局でカエル」しつつ、ひそかにノーベル賞級の発明・発見をねらうF・ニルバ博士の、今後の研究課題である。