Pray for 311

2011年3月11日午後2時46分――

おそい昼食からもどったばかりのピノコさんは、パソコンの画面から顔を上げ、扉のひらかれた診察室のカーテンレールを見つめた。カーテンの吊り下けられていないランナーと呼ばれる部品が左右に流れ、サァーサァーッと音を立てている。

「……地震!」
そう叫ぶと、ピノコさんはニルバを右手ですくい上げ、防災訓練のマニュアル通り、デスクの下にもぐった。しかし、揺れはおさまらず、逆に激しさを増してゆくように感じられる。医局に他の人の気配はない。

さいしょの揺れがおさまったとき、ニルバとピノコさんは目を合わせ、うなずき合って前線へとび出した。何人かのスタッフと「大丈夫ですか」と声をかけ合ったところでまた大きな揺れにおそわれ、患者さんやスタッフと受付台の下にもぐる。……そうしてようやくさいごの揺れがおさまり、センター内の人々の安全を確認しおえたとき、皆が気にし始めたのは、われらがボス、テレサ先生の行方だった。

揺れがおさまるやいなや、ピノコさんは、受付台下をとびだし、テレサ先生に電話をかけていた。大災害の折には不通になりやすいことを知っていたからである。しかしコールできたものの応答はなく、iphoneにメールを残したピノコさんは、テレサ先生の行方を尋ねにきたナース・リーダーのマスコさんにその旨報告した。

「じつは、午後の予定が1つキャンセルになって、急きょ運転免許証の書き換えに出られたんです」
ピノコさんがそう告げると、いつも冷静なマスコさんの顔がにわかにくもった。
「……大丈夫かな。免許センターって建物が古いでしょう?」
ひろがる沈黙……しかし、これから院内の見回りや患者さんの誘導という重要な任務が控えている。
「ともかく、先生からの連絡を待ちましょう」
マスコさんはふだんの沈着さをとりもどし、力強くそう言うと、くノ一のように姿を消した。

その頃――テレサ先生は警察官にとりかこまれ、覆面パトカーの中にいた。勇敢なテレサ先生は、古い建物内でおそわれた激しい揺れにも動じず、すぐさま事務室にかけこみ、「私は医者です。けがをした方がいたら処置します」と協力を申し出たのである。この申し出に、免許センターにいた警察官たちは歓喜の声をあげ、事務室にドクターがいる旨の放送を流した。

数十分後、センター内に大けがを負った人がいないことを確認したテレサ先生が、病院のことが気がかりだからと退出しようとすると、即時の行動に感謝した警察官たちが、車で病院まで送り届けることを申し出てくれたのだった。さすが、われらがウルトラの母――大災害の折、パトカーで帰還し、院内の復旧や帰宅困難となった患者さんのために次々と的確な指示を出すボスを、誰もが誇りに思ったことはいうまでもない。

ブレストセンター一同、震災で被害に遭われた方々の早期のご回復・ご復興を心より祈念申し上げます。

(*写真はピノコ秘書の娘でニルバの遊び友達であるテラスちゃんが、原子力事故からの「地球の復興」を祈って描いた絵。原画はブレストセンター3番診察室に飾られています)