夜中のB-dayパーティー

米国生活の長いテレサ先生は、サプライズで人を喜ばすのが得意である。そんなボスの影響もあってか、医局はしばしば、誕生日会等の奇襲企画で盛り上がる。

今回のターゲットは、週1回、外来診察と手術のためやってくる甲状腺専門医のU先生。「行列のできる」外来診察をめずらしく早々に終えたU先生が長い首をやさしく曲げて語り始めたとき、ピノコさんは話に聞き入ると同時に、秘密を共有するニルバと口をおさえて見つめあった。

……去年の暮れ、ひょっとみたら手紙がね、届いてたんですよ。娘からサンタさんへ。あわててあけると「ことしはラブラドール・レトリーバーの1000ピースのパズルをください」って書いてあるんです。「なんで犬の種類指定までしてあるんだ」「1000ピースじゃないとダメなのか」ってつぶやきながら必死に探したんだけど、どこにもない。ようやく英国のサイトでゴールデン・レトリーバーのパズルを見つけ、英国までメールを出して手に入れました。レトリーバー違いでもなんとか喜んでくれたんですが、いざ仕上げてみたら1ピース足りない。そこでまた英国へメールを出して、「半端なピースは追加注文できません」ってたてまえを押し切きろうと交渉したら、なんとタダでもう1セット送ってくれたんです。ところが、その好意の2セット目が到着した日の前日、その1ピースが出てきて……あの年末年始を費やしたやりとりは何だったんだって、とほほ、と思いました……

つかのま「人の子の親」の顔にもどったU先生は、1杯の紅茶とともにそんな心温まるエピソードを披露すると、春風のような余韻を残して手術室へ出立してしまった。それを見届けるやいなやピノコさんが傘を手に立ち上がり、持ち帰ったケーキに受付のS嬢が得意の腕をふるった似顔絵が添えられ、準備にかかわったスタッフが1人、2人と帰宅して……手術室から帰還した面々の手でようやくパーティーが開始されたのは、明かりがおとされた医局の片隅でニルバがうたた寝をはじめた頃だった。

おどろきながらも夜中のパーティーを満喫された様子のU先生は、電気を消して帰宅する直前、嵐の中ケーキを買いに走ったピノコ秘書の机の上に感謝メッセージをすべりこませる心遣いも忘れなかった。

はるかぜや せんしのきゅうそく いちごのかおり ―― にるば