世界でいちばん

ある日、ニルバ家の庭付近で、看護師のβさんがナースリーダーのマスコさんに呼びとめられた。

それで、お子さんの具合はどうなの?」とマスコさん。ナースの数が多くとも、マスコさんの1人1人への公私にわたる気配りは、じつに行き届いている。

「それが……まだ微熱が下がらないんです」と、首をかしげるβさん。
「じゃ、明日は一緒に出勤したら。いちどこっちで診てもらうといいわよ」
「そうですね……じゃ、そうします」

昼寝をしかけていたニルバは、このとき、多忙な中でも全体へ配慮を忘れないマスコさんの手腕にひたすら感心しながら、この「何気ない立ち話」に耳を傾けていたのだが――

数日後、ニルバが(そういえば最近βさんを見ていないな)と気づきはじめた頃、
タマヨさんに耳打ちされて小さく悲鳴をあげたピノコさんから、ニルバはβさん親子のその後を聞かされた。あろうことか、Tくんに重篤な病気が見つかり、即日入院となったいうのである。

数週間があっという間に過ぎ、看病に一段落したβさんが医局にもどってきた。
「とてもショックでしたけれど、私がここにいることで、彼も安心して病気と闘えるんだと気持ちを切り替えることにしました。私も、彼の近くで働けて何よりですし」

そういって、明るく微笑むβさん。
おなかの大きな時期からβさん親子を医局で見守ってきたニルバとピノコ女史は、時おり手を合わせては、応援の気持ちを上の階へむかって送りつづけるばかりだった。

それから、早数カ月――
「いよいよ退院できることになりました!」
師走も目前となったある朝、瞳を輝かせてβさんが医局にとびこんできた。

そのとき、以前βさんがそっとポケットからとり出してみせてくれた
「そばにいてくれたおかあさんへのおくりもの」
を同時に思い出したニルバは、目のまえのβさんの瞳と、どちらが「世界でいちばん」美しいかしらんと、目をパチパチしながら考えあぐねてしまった。

それがこの、アルミホイル&サランラップ製の「ダイヤモンド」です。

Tくん、βさん、ほんとうにおめでとうございます!