あなたのためにできること
毎年イチョウの葉が黄色に染まるころ、それを合図に、ブレストセンターでは医療者と患者さんとの交流会「スマイルパーティー」が開かれる。チームゆかりのバンドが生演奏を披露したり、テレサ先生率いる「ブレストフラチーム」がたおやかにゴスペルフラを踊ったりする手作り感あふれる会なのだが――
その企画ミーティングでのできごと。近年さらに女子力がアップした企画メンバーの視線の先で、お菓子に手をのばそうとしていたのは、「名医」としてメディアにとり上げられる機会も多い、ブレストセンターの“広報担当“ランナー先生。診察室内やテレビ画面上では職業人として凛々しく見える先生だが、女子にかこまれてお菓子をほおばる姿はまるで少年のようである。
「そうだ、先生、今年何かやってくださいよ」
白板に書かれた
「……え、ボ、僕?」
「そう。今年は先生に何かやっていただかないと」
ブレストセンター最強企画者の呼び声高いケアベア先生も、強力に加勢する。
「う〜ん、何かあるかな〜……患者さんのためにできること……仕事以外で僕にできるのは走ることくらいしかないからなあ〜……『愛は地球を救う』みたいに走ったりかなんかして。『愛は患者さんを救う』なーんてね」
そのとき、ランナー先生は予想だにしていなかった。この「かるい冗談」が、数週間後、まさか現実のものとなろうとは!
(以下、会場に流れたヨンファ先生のナレーションとケアベア先生お手製スライドより)
<この男が立ち上がった…>
<ふだん診察室では伝えきれない想いを、マラソンを通して伝えたい>
はにかみ笑いをうかべて短パン姿のランナー先生が壇上に上がったとき、おそらく、大勢の人の視線が先生のふくらはぎに集中したのではないだろうか。ニルバのとなりで"Wow!"と思わず英語発音の声をもらしたピノコさんの視線の先にも、ふだん医局や診察室では拝むことのできない先生の“ランナー魂”ともいうべき下腿三頭筋が光り輝いていた。
スタッフが応援メッセージを寄せ書きしたTシャツを着せられ「ランナーくん」に変身した先生は、かくして会場となった看護大学ホールをうめつくした人々に見送られ、患者さんへ「勇気と元気」をとどけるため、ベイエリア1周の旅に出発した。
ランナーくんが浜離宮を経てレイボー・ブリッジを渡るベイ・エリア20kmのコースを走っている間、会場はコンサートの合間に流されるランナーくんの実況中継とケアベア先生ご自慢のスライドに大盛り上がり。クライマックスの場面で、医療者と患者さんとが一丸となって歌う「負けないで」の大合唱の中、ランナーくんはめでたくゴールのピンク・テープを切ったのだった。
ランナー先生の勇気と元気と光り輝く下腿三頭筋と、“花のブレストセンター女子軍団”+2騎士の企画実行力、そしてとびきりの「スマイル」を見せてくれた患者さんたちの明るい未来に乾杯!