ご褒美プリン

朝5時20分――コール音が鳴りはじめる。

手探りでつかんだiphoneの画面に<今出ます>という文字を確認すると、テレサ先生は<はい>とみじかい返信を打ち、勢いよく掛布団をはね上げる。

10分後、対岸に住むナース・リーダーのマスコさんが、月島大橋を渡ってやってくる。新年から恒例となった墨田川沿い約4キロの早朝ジョギングのはじまりである。

2月の東京は、まだ日の出前で薄暗い。フルタイム勤務の上に残業・夜勤・土日の出張等も多い職業柄、起きるのがつらい朝もある。それでも2人はメールを交わし、励まし合ってジョギングを続ける。

すべては患者さんのため――
あと10年、ベストな手術をするため――

発端は、新年早々に行われた職員向けの「みんなの体力測定」会だった。近年の運動不足を嘆くピノコさんも参加するというので、肩にのせてもらい会場となったチャペルに行ってみると、十字架の前でエアロバイクにまたがった手術着姿のテレサ先生が、ピノコさんに笑顔で手を振った。そのとなりに、バランス測定にチャレンジするマスコさんの姿も見える。ブレストセンターでもひときわ多忙な2人の集結を目撃したニルバは、おどろいてピノコさんと顔を見合わせた。

「さいきん肩こりがひどくて、腕が上がらないの。あと10年はいい手術をしたいでしょう? だから患者さんのためにも力を合わせて体を作り直そう、って同年代のマスコさんと話し合ったの」
腹筋にチャレンジ後、血圧を測りながら、テレサ先生がピノコ秘書に説明する。血圧計に通された白くしなやかな腕――その腕が、今までいったい何人の患者さんを救ってきたのだろう、とニルバはその腕からしばし目がはなせなくなった。

テレサ先生とマスコ看護師、ピノコ秘書の3人はその日、主催組合から思いがけないおみやげをもらった。体につけていると、一日の歩数や消費カロリーが測れる小型の活動量計である。あらかじめ設定した目標数値をクリアするとバンザイマークが表示され、さらに運動すると余分にデザートを食べてもいいです、とばかりにプリンマークが浮かびあがる。

「プリン出た?」「きょうはまだです。でもバンザイマークは出ました」
医局ですれちがいざまそんな会話を交わし、お菓子に手をのばす前、それぞれそっと腰の器械を確認する「乙女」3人である。